〔問 12〕 Aは、甲マンションの1室を所有し、Aの子Bと同室に居住しているが、 BがAから代理権を与えられていないにもかかわらず、Aの実印を押捺 なつ した委任状 を作成し、Aの代理人と称して同室を第三者Cに売却する契約を締結し、登記も移転した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しい ものはどれか。
1 Bが作成したAの委任状を真正なものとCが信じ、かつ信じたことに過失が ないときには、当該売買契約は有効である。
2 当該売買契約締結後に、Aが死亡し、BがAを単独で相続した場合、売買契 約は相続とともに当然有効となる。
3 Cが、マンションの同室をAC間の売買事情を知らないDに転売した場合、 DがCの所有権登記を信じ、信じたことに過失もないときは、AはDに自らの 権利を主張できない。
4 売買契約後にBに代理権がなかったことを知ったCが、Aに対し「7日以内 に追認するかどうかを確答して欲しい」旨の催告をしたが、Aがその契約の内 容を判断する能力があるにもかかわらず、その期間内に確答しなかったとき は、その契約を追認したものとみなされる。

解説)
落とし穴:民法の無権代理の要件に当てはめるための判断。実印を勝手に使われて、もっともらしい委任状を偽造され、不動産を売却されてしまったら、さらに転売されたら、もう取り返せない?取り返せる?表見代理の要件とあてはめが問われています。
選択肢1
代理権を与えられていないBが無権代理人で、それを信じたCと本人のA、どちらが法的に保護されるかが問われています。最も悪いのはBですが、Cは無過失です。Cを保護するためには、売買契約が有効に成立すること、つまり表見代理が成り立つことが必要です。
1.表見代理の要件は、代理権があると思わせる外観、
2.本人がその外観作出に関する帰責性
3.相手が外観を信じるに足りる正当な理由
です。
Aの実印を押捺 なつした委任状は、1に当てはまり、Cが信じ、かつ信じたことに過失が ないときは3にあてはまりますが、2の要件があてはまりません。Aには、責められるべき事情はないからです。
そこで、表見代理が成り立ちません。Bは無権代理人なので、契約は無効です。
正しくない。
選択肢2
本人のAが死んでしまい、無権代理人のBが単独で相続した場合には、本人Aには権利も義務もありません。Bは、委任状を作ってまで契約したのですから、Aが死んだからと言って、契約は無効にしてBを保護するのは、Bを信頼して契約したCに不公平です。
正しい。
選択肢3
選択肢1から、売買契約は無効なので、Cは、無権理者であって、所有者ではありません。所有者でないCに登記を移転していても、登記があれば所有者とは言えないので、(公信力がないので)、無権利者から、転売を受けたDは過失がなくても、無権利者です。
正しくない。
選択肢4
民法114条の条文そのものです。
Aは契約を追認拒絶したものとみなされます。
正しくない。
以上のことから、選択肢3が正解になります。